読書好きの少女だった私へ③
家に帰ると新品の靴で両足が靴擦れしていた。
白い靴下なんて履かなければよかった。
服を着替え、そのままベッドに倒れこんだ。
本日の戦利品の小説を開き、まだこの世に存在していない世界を自分の脳内で展開した。
幼いころ、本が大好きだった。
本を読みすぎて目が悪くなった。
そのせいで小学2年生の頃から眼鏡だ。
そんな小学生の頃は2年間図書委員を務めた。
どこに何の本があるかすべて把握していたし、
図書館にある本は読みつくした。
特に好きだった本棚。
第一図書館の一番右奥、中庭が見える窓のすぐ隣の本棚。
海外のファンタジー小説がたくさん置いてあった。
ここに置いてある本はどれも分厚く、大人になれたような気がした。
シリーズ物のファンタジー小説を開く瞬間がたまらなく好きだった。
またこの世界に帰ってこられた。
そこには確かに自分の生活するリアリティとは別に自分の生きる世界があった。
登場人物との再会は嬉しく、そこで繰り広げられる景色も懐かしく思えた。
本の中では私は何にだってなれた。
だからこそシリーズの完結は悲しかった。
一緒に冒険した登場人物たちとはもう会えない、卒業式の様な感覚。
そんな本の虫だった幼少期の感覚を思い出した。
いつから本をあまり読まなくなってしまったのだろう。
いつから参考書ばかり開くようになったのだろう。
ここまでがとある日曜日の実話。
時代が何度も行き来した。
少女だった頃の自分とすれ違ったかもしれない。
と、どこにでもありそうな小説風の文章を書きたくなったわけだ。
読書好きの少女だった私へ②
ポケットに本を入れたままあてもなく歩いた。
まっすぐ前にある道をただ歩いた。
途中、コーヒースタンドでスパイスコーヒーを購入した。
その日販売開始したばかりだという。
コーヒーを待っている間、店内に置いてある黄色いウォークマンにカセットテープ入れた。
選んだのは、デヴィッド・ボウイのアラジン・セイン。
カセットテープが動き出した。
テープを巻き取る音が懐かしかった。
カセットテープは動いたが、再生することはできなかった。
使い方を知らなかった。
だけどその時私たちは、まぎれもなく懐かしい音を聞いた。
まだ聞いたことのないアラジン・セインよりも、懐かしいと思える音。
その先にはパン屋があった。
天井が高く、店内にはプラスチック製の2階にまで届く大きな木が生えていた。
迷った挙句、クイニーアマンとサーターアンダギーとフランスパンを購入した。
フランスに挟まれた沖縄はどんな気持ちだろう。
パンとコーヒーを片手に路地に入った。
夕暮れの公園のベンチに座り、私たちは目の前に聳え立つマンションを眺めた。
マンションの外には「予約」と表示されたタクシーがずっと待機している。
最上階には大きなシャンデリアが見えた。
なんとも薄暗いマンションである。
タクシーを予約していた住人が出てきたときに、そのマンションにはコンシェルジュがい
ることが分かった。
住人を外まで見送るコンシェルジュ。
その光景を眺める私たちは、「コンシェルジュなんて言葉よく出てきたね。」
と言いながらサーターアンダギーを食べた。
私たちはコンシェルジュの目には留まったが、住人の目には留まらなかった。
シャンデリアの部屋からは何が見えるのだろう。
帰り道、暗がりに光る商店があった。
明るい光ではなかったが、不思議と目を引く存在だった。
近づいてみるとそれは昔懐かしい豆腐屋だった。
小窓から中を覗くと店の奥の一段上がった畳におばあさんが一人腰かけていた。
絹ごし豆腐、木綿豆腐、薄上げ、厚揚げ…
その中から私は袋いっぱいの真っ白なおからを選び、小窓から50円玉をおばあさんに手渡
した。
小窓の横には赤く目立つシールが貼ってあった。
PayPayが使えるらしい。
がんもどきが食べたくなった。
すっかり体が冷え切ってしまったので、私たちは立ち食いおでんのお店に入った。
読書好きの少女だった私へ①
2月最初の週末。
天気が良く、暖かい日だった。
その日は同僚と一緒に私がかつて学生時代に住んでいた街に出かけた。
昼からブルガリアのオレンジワインを飲み、仕事の話やテレビの話など他愛ない話をした。
店を出る際に店員さんが出してくれた飴が入った籠の中から、個包装のピュレグミを見つけ、同僚に自慢した。
古本屋の前を通った。
古本屋というよりかは、万屋といったところ。
おばあさんが一人で切り盛りをしているその店の商品は、松本伊代のレコードやフランス製のお皿、年代物のコート、温泉街のお土産物など一貫性がなかった。
歩道に面した壁に埋め込まれた木製の本棚。
その横には赤と青の大きな文字で「古本・不用品 買取・引き取り」と書かれた、これまた木製の看板がかかっていた。
同僚と私はなんとなく立ちどまり、本棚を物色した。
割と最新の小説もあれば、「巨人軍優勝の記録」といった類の本も並んでいた。
「この本面白かった」
同僚が手渡してきた本を受け取り、裏表紙めくるとエンピツで「100」と書かれていた。
ほろ酔いだったこともあり、「じゃあ買う」と即決し、店内のおばあさんに100円玉を渡した。
その日は鞄を持っていなかったので、コートのポケットにそのまま小説をつっこんだ。
ロシア人美女の正体 後編
※この記事は後編です
littlegirlbigworld.hatenablog.com
一つにまとめた綺麗な長い黒髪。
ロングコートに黒いヒールのブーツ。
高身長で目鼻立ちのはっきりした美人の彼女は、見るからにお金持ちという雰囲気でした。
「大丈夫?どこに行きたいの?」
そう親し気に英語で話しかけてきた彼女に対し、私は戸惑いを隠せませんでした。
「もうわかったから大丈夫~」
などといいながら聞きたい気持ち半分、警戒心半分。
そんな私を見て彼女は、半ば強引に私のiphoneのMapをのぞき込みました。
「近いね、連れて行ってあげる。もう一度ホテルの名前を教えて。」
と言い、先導し始める彼女。
ついて行っていいものかと悩みながらも、
確かにその方向に目的地があったので少し距離を空けてついていくことに…
どんどん急な坂道を下っていきます。
その間に何やらロシア語でどこかに電話する彼女。
電話の相手は男性です。
(カツアゲに合うかも…いや、どこかに売り飛ばされる?)
と不安に思いつつ付いて行くと、どんどん暗い道に。
この先はたぶん行き止まり。
ピンチ。
と思っていると前から人がきました。
その人と何やらロシア語で話す彼女。
「ホテルの人が迎えに来てくれたよ。この人について行けばいいから。ホテルはもうそこよ。」
確かに、彼女の指さした先には目的地のホテルが。
Map上でも正しい位置を示しています。
さらに彼女は、ホテルの人に英語が通じないと知り、私たちの事情まで説明してくれていました。
「じゃあ用事があるから行くね。」
去ろうとする彼女に、何かお礼をとカバンの中にあった日本のお菓子を渡し、
この感謝の気持ちをできるだけ伝えたいと必死になっていると、彼女は
「インスタ持ってる?フォローしてよ。オススメのお店とか教えるし、困ったことがあったら連絡して。」
とインスタグラムのアカウントまで教えてくれました。
「旅行楽しんでね~」
颯爽と去るお姉さま。
今まで私たちが下ってきた急な坂道を登っていきます。
彼女は用事があるにもかかわらず、自分の目的地とは全く違う方向にあるホテルまでわざわざ送ってくれたのです。
彼女のインスタグラムアカウントを改めて見てみると、どうやら彼女はモデルで、
自分で事業もしている方のようでした。
その後もロシア滞在中は何度か連絡を取り合い、素敵なバーやレストランをたくさん教えてもらいました。
あの時少しでも彼女を疑った私を恥ずかしく思います。
私も彼女の様に、自分の足で立ち、自信に満ち溢れ。他人にまで気を配れる、そんな余裕のある女性になりたいと切に思います。
ロシア人美女の正体 前編
一昨年の11月、ロシアに行きました。
一応ロシア対応のSIMカードだけは用意し、到着したものの
ノープラン。
ホテルは2人で5泊20,275円。
安くて便利そうな場所をなんとなく予約したので、
どこに立地しているかはイマイチ把握していませんでした。
到着は夜。
飛行場から、市街地まで「たぶん」これだろうというバス(ちょっと大きめのワゴン車)
にぎゅうぎゅうで乗り込み、「たぶん」ここだろうというバス停で降りました。
道端。
本当に幹線道路みたいなところに降ろされました。
目の前にあるのは、4車線ほどある広い道路と、薄暗い外灯のみ。
しかも目的地はどうやら反対方面。
死ぬ。
と思いながら意を決して、道の反対側まで猛ダッシュ。
スーツケースのコマが外れるかと思いました。
なんとか死なずに道を渡れましたが、待ち構えていたのは反り立つ壁…
かと思うほどの急な上り坂。
もうへとへとです。
真っ暗な住宅街を歩いていましたが、
周りには人の気配すらなく、家の中も静まり返っています。
この街には狼人間が出るので、この時間は息をひそめないといけない
暗黙のルールでもあるのか…
などとしょうもない妄想を膨らませながら目的地であろう方向に歩きましたが、
まあたどり着かない。
さすがに身の危険を感じていた時でした。
突然女性が現れ、声をかけてきたのです。
続く
21.25.01
朝、外に出てみると、吐く息が白かった。
毎年、息が白くなることで冬の到来を感じていたのに、
今年に限って、白い息を見たのは今日が初めてだ。
白い息を見て、慌てて顔の2/3を覆った。
今年はまだ、冬のにおいもかいでいない。
昨日の予報は雪だった。
実際に雪が降ったのかは知らない。
自転車に乗っていると、濡れた道路に光が乱反射して
動かない水面の様にきらきらとまぶしかった。
今年はどうやって、春の訪れに気づけばいいのだろう。
今日は暖かい。